強迫性障害


強迫性障害とは

強迫性障害では、自分の手が汚れているのではないか、家族の誰かが死ぬのではないか等の考えが自分の意思とは別に何回も頭に浮かぶなどの強迫観念と、強迫観念に駆られて手を何回も洗う、鍵やガス栓を何回も確認する等の行動をしないと気が済まなくなる強迫行為がみられます。何回も同じ確認を繰り返して日常生活に支障が出る病気です。初期段階で適切な治療を受けることが重要になります。発症には生育歴や性格、感染症、ストレス等の多様な要因が関係しているとされていますが、どのようにして強迫性障害になるか、原因ははっきりとは分かっていません。

しかし、前向きに治療に取り組めば改善が期待される病気です。強迫性障害は、手洗いや戸締まりの確認等の誰もが生活の中で普通にすることの延長線上にあります。もしかしたらやり過ぎではないか、自分は神経質ではないかという判断は難しいのですが、ご本人が「必要がないとわかっているんですが……」というように、上記のような観念・行動の不合理性を理解されているにもかかわらず自制ができない、「わかってはいるものの止められない」という葛藤が苦痛となって訴えられます。放置した際は重症化していく傾向がみられます。抑うつ状態や他の精神疾患を合併してしまう場合もあり、治療が難しくなります。

また、放置することで、日常生活に支障が出て行動範囲が狭くなり、自宅から出られなくなってしまう場合もあります。

 

強迫性障害の症状について

強迫性障害には、強迫観念と強迫行為の両方の症状がみられる場合が多いです。

主な強迫観念と強迫行為については下記のような例が挙げられます。

不潔恐怖と洗浄

  • 手洗いや入浴、洗濯などに長い時間を掛ける、頻繁にする
  • ドアノブや手すり、エレベーターのボタン等を汚いと認識してしまって触れられない

加害恐怖

  • 誰かに危害を加えたかもしれないという不安が頭から消えない
  • テレビや新聞に自身の事故や事件の記事が出ていないか確認する
  • 周りの人や警察に自身の事故や事件がないか尋ねる

確認行為

  • 電気機器のボタンやガス栓、戸締まりを頻繁に確認する

儀式行為

  • 自分の決めた手順で物事を行わないとよくないことが起こるという不安を抱く
  • どのようなときでも自分の決めた手順で生活行動や家事、仕事をする

数字へのこだわり

  • 縁起が良い・悪いといわれる数字に強いこだわりがある

物の配置、対称性等のこだわり

  • 物の配置に強いこだわりがある


強迫性障害の原因について

強迫性障害は、遺伝要因と環境要因が重なることで発症するとされています。幼少期や思春期に発症した方、チック障害がある方は遺伝の影響が強いといわれています。しかし、強迫性障害の両親を持ったお子さんに必ず発症するわけではありません。

遺伝的な発症のしやすさがあって、さらに環境要因が重なって発症すると考えられています。環境要因では、性格とストレスが関係しているといわれています。

かかりやすい性格とストレス

特徴的な性格としては、神経質で几帳面、こだわりが強いといった性格が見られます。

また、虐待等のトラウマの心的外傷といわれる過剰なストレスを受けた際にも強迫性障害を発症しやすいとされています。

 

強迫性障害の診断について

ICD-10

強迫症状や強迫行為、またはその両方の症状や行為が少なくとも2週間続き、ほとんど毎日の生活で苦痛または生活に支障が出ている状況があるかどうかを判断して診断を行います。

下記のような特徴がみられます。

  • 強迫性障害の症状は、症状自体が楽しいものでない状態である
  • 行為または思考や状態は不快であって何度も繰り返される状態である
  • 強迫症状は患者さん自身の思考や強迫行為として認識されている状態である
  • 強迫観念や強迫行為に患者さん自身が違和感のない強迫症状があった場合でも、少しでも違和感のある思考や行為がある状態である

DSM-5

強迫性障害にはチック症状も含みます。チック症状の具体例としては、咳払いやまばたき、首の運動等を繰り返すなどがあります。

なお、DSM-5において強迫性障害は、下記のように分類されます。

認知的タイプ

強迫観念という頭から忘れられない不安や考えにとらわれて、やめたいと思っていてもやめられずに何度も行為を行ってしまう典型的なタイプです。汚れることへの恐怖から手洗いやシャワーをやめられなかったり、火事の心配等から何度も火の元を確認します。

  • 身体醜形障害(しんたいしゅうけいしょうがい)では、自分は醜いと認識します。皮膚科や美容整形の受診を繰り返したり、化粧品を過剰に購入したり、鏡を何度も見たりします。
  • ためこみ障害は、捨てたら後悔するのではないかという不安から捨てることができずに溜めこんでしまいます。また、ものに執着することもあります。生活空間に支障が出るようなこともあります。

運動性タイプ

観念や不安の増大に関わる認知的プロセスは明確には明らかになっていません。厳密なルールに従って行われ、生活のどのような状況でも起こり得ます。例えば、鍵がかかる音といった鍵が閉まる感覚が納得できるまでこのような行為を繰り返すこともあるいわれています。これは鍵が閉まっているかという不安にとらわれた行為ではありません。自分の求める感覚を追求して繰り返してしまい、いつまでも納得できずに動けない状態になってしまうこともあります。


強迫性障害の治療について

強迫性障害の治療は、薬物療法やカウンセリング(認知行動療法)を中心に、社会資源の活用や環境調整などのアプローチを考慮して行われます。

薬物療法では特に、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)が効果的とされています。SSRIは、脳内の神経伝達物質であるセロトニンの働きを改善し、強迫観念や強迫行動を軽減する作用があり、患者さんが強迫性障害の症状をコントロールに役立つことがあります。

また、SSRIの効果に鑑みて、抗不安薬抗精神病薬が併用されることもあります。

さらに、強迫性障害の治療において効果的とされているのが、認知行動療法です。認知行動療法では、患者さんが自分の強迫観念や強迫行動を理解し、それらに対する新しい対処方法を学びます。一例を挙げると、曝露反応妨害法という技法が強迫性障害に効果的であるとされています。強迫観念を引き起こされる状況で強迫行動を抑えることを目指します。これにより、強迫行動を繰り返すことなく、不安や恐怖に対する耐性を高めていきます。治療を通じて症状の軽減や改善が見込まれます。

その他にも、強迫性障害の治療には、家族の協力が重要となります。患者さんの家族が強迫性障害を正しく理解し、適切にかかわり、サポートできるようになることが治療に役立ちます。

以上のように、強迫性障害の治療には、認知行動療法や薬物療法などを組み合わせたアプローチが有効となります。薬物療法で症状の緩和を図り、カウンセリングを通じてアプローチすることが、回復につながります。患者さんの状態に合わせた治療を行い、早期に対応することで、症状の改善や回復を目指すことが可能です。