コラム

PTSDとは?なりやすい人の特徴や症状、治し方について解説

精神疾患・精神障害

PTSDは虐待だけではなく、さまざまな出来事がきっかけで発症します。受診前に症状を知ることで、適切な治療やカウンセリングが受けられるでしょう。

今回は、PTSDの症状や治療方法を詳しく解説します。PTSDの症状のサインも記載しているため、症状改善につなげるための参考にしてみてください。

PTSD(心的外傷後ストレス障害)とは

PTSDはトラウマとも呼ばれ、生命に関わるような出来事や怪我などによって、精神的な苦痛が続く状態をさします。大人から子どもまで約9%の人が発症し、精神的苦痛が長く続くと、精神障害になる可能性が高いです。また、人に打ち明けにくいようなつらい体験ほど発症しやすい傾向にあります。

PTSDになりえる出来事

PTSDになりえる出来事としては、戦争から帰還、退役した軍人が発症するケースがよく知られています。また、戦争以外では、主に以下の出来事が挙げられます。

【PTSDになりえる出来事】

  • 虐待
  • 交通事故
  • 性犯罪
  • 地震
  • 津波

日本では自然災害が多いため、地震や津波などでPTSDを発症しやすいです。東日本大震災から10年程たった現在でも、PTSDに苦しんでいる方がいます。

PTSDの症状とサインをチェック

自分自身ではPTSDの症状とサインに気がつかない人もいます。心身に負担のかかる出来事に直面すれば、誰でも多かれ少なかれショックを受け、普段は現れないような症状が出ることもあるでしょう。しかし、これが長く続くようであれば、PTSDを疑ったほうがいいかもしれません。

主に以下のようなサインがあった場合は、PTSDの可能性があります。

突然つらい記憶を思い出す

突然つらい記憶を思い出してしまうのは、PTSDのサインの一つです。

大きな事件や事故に遭うと、しばらく経ってから、もう一度体験しているように生々しく思い出してしまうことがあります。当時のことなどすっかり忘れたつもりでいても、ふとした時に、つらい体験をした時に味わった感情がよみがえります。また、同じ悪夢を繰り返し見てしまうこともあるでしょう。

感情面においては、恐怖だけでなく、苦痛や怒り、無力感などが混ざっている状況です。周りからみると、何もないのに突然感情が不安定になり、取り乱したり涙ぐんだり怒ったりしているように見えるため、理解されるまでに時間がかかることがあります。

常に神経を使っている感覚がある

常に神経を使っている感覚があれば、PTSDの症状の可能性があります。常に神経を使ってしまうと、主に以下のような状態が続くことになるので、気持ちが安らぐことがありません。

  • 常にイライラしている
  • ささいなことで驚きやすい
  • 警戒心が極端に強くなる
  • ぐっすり眠れない

また、あまりに大きな負荷が心身にかかると、自分が体験したことの記憶が抜け落ちてしまうケースもあります。

昔のことを思い返すことを避けている

PTSDになると、トラウマとなった出来事を思い出すような場所や物事、人物、会話などを避ける傾向にあります。

具体的な回避行動は、以下のとおりです。

  • 電車で痴漢・盗撮被害に遭ったため、電車に乗ることを避ける
  • 津波で家族を亡くしたため、海に近寄らなくなった
  • いじめの加害者を避け、学校へ行かずに引きこもりになる

回避行動が続くと行動が制限され、通学時に車での送迎が必要になるなど、生活に大きな支障が出てしまいます。

感覚が麻痺している

つらい記憶から逃れるために、感覚が麻痺することがあります。家族や友人に抱いていた愛情や優しさなどを感じられなくなったり、人に対して心が許せなかったりします。ただ、感覚が麻痺しているのは悪いことではなく、つらい経験の記憶から心を守るための自然な反応だということは覚えておきましょう。

PTSDになりやすい人の特徴

PTSDになりやすい人の主な特徴は、以下のとおりです。

【PTSDになりやすい人の特徴】

  • 発達早期でトラウマ経験をした人
  • 感受性が豊かな人
  • 発達障害がある人

PTSDをより理解するために、ご自身にあてはまる特徴を理解することが重要です。

発達早期でトラウマ経験をした人

PTSDになりやすい人の特徴は、発達早期でトラウマ経験をした人です。たとえば、母親の妊娠中のストレスや、出産時の医療措置による経験などによって起こる可能性があります。この場合、体の調整機能が正常に働かなくなり、アレルギー反応やアトピー、原因不明の発熱など、身体的な症状で苦しむことがあります。

感受性が豊かな人

PTSDになりやすい人は、感受性が豊かな傾向があります。敏感で感受性が豊かであるゆえに、発達の早期段階で感情的なトラウマを感じやすくなるでしょう。また、時間の経過とともに複数のトラウマ体験が積み重なると、記憶は強いまま残るため、心の状態にさらに大きな影響を与えます。

発達障害がある人

発達障害のある人は、PTSDになりやすい傾向にあります。コミュニケーションスキルや社会的スキルが不足し、自分の感情や思考の表現が難しくなると、トラウマ体験の処理が困難になるからです。

また、感覚過敏な状態が長期に続くと、外界からの情報を適切に受け取れず、混乱や恐怖が引き起こされます。社会生活の困難さと長期的な感覚過敏状態が重なることで、PTSDになりやすくなります。

PTSDの治し方

PTSDを治すためには、環境調整と医療機関やカウンセリング機関で支援を受けることが重要です。具体的な方法としては、以下のことが挙げられます。

【PTSDの治療方法】

  • 環境を整える
  • 薬物治療
  • TMS治療

ただし、うつ病などの併存疾患があり、またその症状が重い場合は、まずはその疾患の治療を優先して進めていきます。

環境を整える

トラウマを思い出させるようなものを遠ざけ、日常の安全を優先するために環境調整をしましょう。もし安全が保障できない場合は、社会的資源を活用して安心できる場所を確保します。

たとえば親族から虐待を受けている場合は離れられて暮らすようにしたり、ストーカー被害に遭っている場合は引っ越したりなど、トラウマの原因から逃れることを目指します。また、PTSDの人のなかには生活が破綻している人もいます。その場合は、まず健康的な生活が送れるような方法を考え、それから症状に対処する方法を考えていきます。

環境を整えるためにはひとりでは限界があるため、社会的資源を頼ってみてください。

薬物治療 

薬物を使ってメンタルの不調改善をはかる「薬物療法」があります。抗うつ薬を中心とした薬物療法は、PTSDの症状への効果があることがわかっています。抗うつ薬であるSSRIは有効性の高さと、副作用の少なさからPTSDの治療で処方されることが多い傾向にあります。日本の精神科医療では、パロキセチンやセルトラリンが保険適用を取得しています。

ただし、これはあくまでも対症療法で、一時的な症状の緩和が目的であること、副作用があることを踏まえ、服用する場合は必ず医師の指示に従うようにしましょう。

TMS治療 

TMS治療は、磁気刺激で脳の特定部位を刺激し、脳機能を正常な状態に戻す治療法です。薬物療法に比べ副作用が少ないことが特徴で、一部の心療内科や精神科で取り扱われています。

PTSDの症状は、薬による治療だけでは改善が難しいものです。TMS治療はPTSDの薬物治療をサポートする形で有効な手段と言えるでしょう。

心理社会的治療(カウンセリング・認知行動療法)

心理社会的療法は、心の悩みに働きかけて脳の不調の回復をはかります。主な心理社会的療法としては、カウンセリングと認知行動療法が挙げられます。

カウンセリングでは、PTSDに関する正しい知識を得ることも目的として含まれています。呼吸法やリラクゼーション、ストレス対処法を共有することで、不安や緊張を緩和しPTSDの症状改善が期待できるでしょう。

また、認知行動療法の一種である「持続エクスポージャー療法(PE療法)」は効果の高い治療法です。ただし、感情に強い負荷がかかるため、治療を受ける場合は信頼できる臨床心理士や公認心理師を探すことが重要です。

もうひとつの問題として、認知行動療法を実践している医療機関が多くない点が挙げられます。もしも近辺の医療機関で認知行動療法やカウンセリングを受けられるところがない場合は、インターネット接続ができる環境があり、プライバシーが守られ安心して話せる場所であれば、どこからでも利用できるオンラインカウンセリングがおすすめです。

関連記事:認知行動療法とは?具体的なやり方や受ける前に知っておきたいことを解説

まとめ

PTSDは事件や事故、災害、虐待などつらい体験をした後に発症し、精神的に苦しい状態が継続します。症状を改善するためには、トラウマとなる出来事から離れて、経験豊富な医師などの専門家から適切な治療を受けることが重要です。

また、PTSDの治療を進めるうえで、悩みを打ち明けられる他者の存在も必要と言えます。家族や友人といった身近な人でもいいですし、もし難しければカウンセリングを受けるのもおすすめです。「こころケア」では、専門知識を備えたカウンセラーが丁寧かつ真摯に、一人ひとりの悩みに向き合います。オンラインカウンセリングのため、自宅からリラックスした状態で臨めるのもメリットです。ぜひ気軽に活用を検討してみてください。

 

記事監修

公認心理師 櫻井 良平

監修者写真兼カウンセラー写真

国家資格
  • 公認心理師
  • 精神保健福祉士
  • キャリアコンサルタント
  • 社会福祉士
  • 保育士
所属学会等
  • 日本認知療法・認知行動療法学会
  • 日本発達障害支援システム学会
    (第17回研究セミナー・研究大会において学会賞受賞)
略 歴
  • 医療機関や民間のセンター等での対面・電話・オンラインカウンセリング経験が豊富
  • 認知行動療法にかかる厚生労働省・国立研究機関主催研修を修了
  • 第一線の専門家に師事し、精神分析療法、解決志向短期療法、愛着理論、応用行動分析学等を研究
  • 教育・心理・社会保障・保健医療分野における国内外の国際協力プロジェクトへの従事経験を持つ
    (開発途上国における「育児・子育て手法」「発達アセスメント・支援ツール」「知能検査」の開発・普及プロジェクト等)