プラシーボ効果があるのは偽薬だけではない?信頼できる医療機関・カウンセリングの見つけ方
「プラシーボ効果」という言葉を聞いたことはある人は、多いのではないでしょうか。プラシーボ効果とは、患者が治療を受けていると思い込むことで、身体に具体的な改善が見られる現象を指します。
この記事を読むことで、プラシーボ効果が、私たちの健康や治療にどのように影響を与えるのかを理解することの助けになります。特に、心の健康に関心のある方は、ぜひ最後までお読みください。
プラシーボの意味
「プラシーボ(プラセボ)」とは、見た目や味は薬と同じだけれども、実は薬効成分を含まないものを指します。これを「偽薬」と呼ぶこともあります。プラシーボには薬の有効成分が入っておらず、通常、でんぷんや乳糖などの無害な物質が含まれています。これらを錠剤やカプセル剤などにして、薬効がある本物の薬に見えるよう作られています。
この言葉は英語やフランス語では「placebo」と書かれ、その起源はラテン語で「私は満足するだろう」という意味を持つフレーズからきています。この名前の由来からもわかるように、プラシーボはもともと、その医学的効果というよりも、患者の気持ちを安定させたり、機嫌を良くしたりするためのものでした。
プラシーボは見た目や味が本物の薬と同じなので、飲んだ人は「薬を飲んでいる」と感じることができ、その感覚が自分の体に影響を与えることがあるのです。この現象は「プラシーボ効果」と呼ばれ、その力は驚くほど強いことが科学的に証明されています。
参考:日本ジェネリック製薬協会「プラセボ効果とは」
プラシーボ効果とは
「プラシーボ効果」とは、実際には薬効成分がない偽薬(プラシーボ)を服用したときに、患者本人が薬を服用したと信じることで、病気の症状が改善するという現象です。この効果は特に、不安や緊張などの精神的な疾患において顕著に現れます。
具体的な事例としては、以下のような研究があります。痛みを感じる患者に対して、実際には鎮痛効果のないプラシーボを「強力な鎮痛剤」として与える実験を行った結果、患者の多くから「痛みが和らいだ」という報告があがりました。これは、患者が「強力な鎮痛剤を飲んだ」と信じることで、脳が痛みを感じにくくするというメカニズムが働いたと考えられます。
このように、プラシーボ効果は我々の心と体のつながり、そして信じる力の強さを示す一例といえます。ただし、重篤な病気に対してプラシーボだけで対処することは危険ですので、適切な医療行為を受けることが重要です。
プラシーボ効果が起こるメカニズム
プラシーボ効果のメカニズムは、まだ完全には解明されていません。最新の研究では、プラシーボによって痛みの間隔が和らぐプラシーボ鎮痛効果について、痛みの緩和の際に前頭前皮質など脳の一部の領域で神経活動が高まること、また内因性の神経ペプチドであるオピオイドやドーパミン神経系が関わっていることが報告されています。
一部の研究では、プラシーボ効果には患者の自然治癒力が影響している可能性が示唆されています。自然治癒力とは、体が自身で病気や怪我を治す力のことで、これがプラシーボ効果の背後にあると考えられています。
その他にも、薬を服用したという行為自体が安心感を与え、精神的な安定をもたらすことが一因とされています。これは特に、患者が医師や治療法への信頼を持っている場合に顕著です。患者が医療行為に対して期待感や信頼感を持つことで、その感情がプラシーボ効果を増強させると考えられています。
しかし、これらはあくまで一部の研究で提唱されている理論であり、現時点では確定的な証拠は得られていません。プラシーボ効果の正確なメカニズムは、今後の医学研究によりさらに明らかにされることが期待されています。
ノセボ効果とは
プラシーボ効果の反対の概念として、「ノセボ効果」という言葉があります。ノセボはラテン語で「害を及ぼす」という意味があり、ノセボ効果とは、実際には効果がないにも関わらず、ネガティブな効果が現れる現象を指します。
たとえば、実際にはプラシーボ(効果のない偽薬)であり、頭痛を引き起こす成分は含まれていない薬を、「この薬は副作用として頭痛が出ることがある」と説明された患者は、その薬を飲んだ後に頭痛を感じることがあります。ここでの頭痛は、患者が薬の副作用について聞いて心配したり、恐怖したりすることによって引き起こされています。これがノセボ効果の一例です。
また、直近の事例では、コロナワクチンの臨床試験時、プラシーボ接種群のうち3分の1あまりの人が疲労感や頭痛などの症状を訴えたという報告もありました。プラシーボ接種群に注射されたのは生理食塩水ですので、注射針を刺して液を注入する以外の害はないはずです。これがまさに、コロナワクチンの接種に対する不安や恐怖が引き起こしたノセボ効果の例です。
ノセボ効果は、患者の心理的な状態や期待が身体的な症状に影響を与えるという、心身のつながりを示しています。そして、これらの効果は、医療の現場で十分に理解され、適切に対処されるべき重要な現象です。
参考:ケアネット「コロナワクチンのノセボ効果はどの程度か」
プラシーボが使われる現場
プラシーボ効果は、我々の生活のさまざまな局面において効果を発揮します。以下に、プラシーボが使われる現場についての例を挙げています。しかし、これらがすべてポジティブな使い方だけであるとは限らず、場合によっては偽薬食品などに利用されることもあります。このような多面的なプラシーボ効果の活用について詳しく見ていきましょう。
【プラシーボが使われる現場】
- 新薬開発の臨床試験
- プラシーボ効果を売りにした偽薬食品
- 介護現場での減薬
- 精神疾患治療
新薬開発の臨床試験
プラシーボが最も活躍している現場は、新薬開発時の臨床試験です。臨床試験とは新薬の効果や安全性を確認するための重要な試験ですが、そこでプラシーボの役割が活きてきます。
例えば、見た目・重さ・味などをすべて同じになるよう作成した新薬とプラシーボを使い分けることで、新薬が実際に病気の症状を改善するのか、それとも患者が薬を飲んだという心理的な効果が得られているだけなのかを調べることが可能になります。「二重盲検比較試験(Double Blind Controlled Test)」と呼ばれる手法です。
具体的には、薬の投与を受ける患者を始め、担当医師・薬剤師・看護師などのスタッフなど実際に薬の投与に関わる人全員が、誰がどの薬を飲んでいるかわからない状況を作ります。その条件下で、新薬を使用する患者とプラシーボを使用する患者のデータを比較します。そして新薬がプラシーボよりも有効であれば、新薬の効果が認められます。
ただし、現在では倫理的な観点から、新薬の有効性を試す際にプラシーボではなく類似の既存薬を使用することが推奨されています。これは、プラシーボを使用すると、治療が必要な患者に効果のないものを与えてしまう可能性があるからです。しかし、比較するべき類似薬が存在しない場合には、プラシーボが使用されることがあります。
参考:全日本民医連「くすりの話 プラシーボ効果とは」
プラシーボ効果を売りにした偽薬食品
プラシーボは、新薬開発時の臨床試験だけでなく、実は日常生活にも登場します。驚くかもしれませんが、実際に偽薬を積極的に製造・販売している企業も存在するのです。
これらの企業では、商品を「本物の偽薬(偽薬食品)」として市場に出しています。説明にも、「偽薬・似せ薬・気休め薬」のことであり、本品はくすりのかたちに似せた食品です。医薬品ではありません。」と明記されています。
プラシーボ商品の見かけやパッケージは、本物の薬と同じような外観をしています。しかし、中身は有効成分を一切含んでおらず、主な材料としては還元麦芽糖、結晶セルロース、ステアリン酸カルシウムなどが使われています。
これらの商品は、プラシーボ効果を期待して購入する人々に対して提供されています。すなわち、これらの商品を使用することで、利用者自身の心理的な効果により、何らかの改善が見られることを期待しているのです。
介護現場での減薬
偽薬食品が最も有効に利用されているのが、介護現場です。薬を多く摂取したがる高齢者のケアに、プラシーボが活用されることがあります。
高齢者の中には、薬を飲むことで安心感を得ている人が少なからずいます。しかし、薬の過剰摂取は健康に影響を及ぼす可能性があるため、適切な量の薬を摂取することが重要となります。このような状況で、プラシーボが非常に役に立ちます。
具体的には、必要以上に薬を欲しがる高齢者に対して、薬の代わりとしてプラシーボを投与します。見た目や味は薬と全く同じですが、実際には薬効成分は含まれていません。プラシーボを使用することで、健康には影響を与えず薬を服用したという安心感を与えることができるのです。
また、このような方法は、高騰している医療費の削減にも寄与すると期待されています。薬効成分が含まれていないプラシーボは、実際の薬よりもコストを低く抑えられますので、経済的な観点からも有効といえます。
参考:薬読「介護現場の減薬、偽薬で後押し~薬剤費抑制一助に起業で挑む」
精神疾患の治療
精神疾患の治療では、薬物だけでなく心の働きが大きな影響を及ぼすため、プラシーボ効果が特に顕著に現れやすいといわれています。具体的には、うつ病やパーキンソン病などの疾患で、プラシーボ効果が得られることが確認されています。
特にうつ病の患者の中には、軽度から重症までのさまざまな状況の人々がいますが、なんと30%から70%の人々にプラシーボ効果が現れているとの研究結果もあるのです。このような結果から、精神疾患の治療にプラシーボが用いられることもあります。
さらに、興味深いことに、プラシーボ効果はその薬を誰から受け取るか、どのように受け取るかによっても変化します。例えば、患者が尊敬する医師や信頼する医師から薬を処方してもらったと感じると、より強いプラシーボ効果を体験することがあります。また、特別な薬を受け取ったと思うことで、その薬に強く信頼を置き、結果的にプラシーボ効果が強まることがあるのです。
参考:齊尾武郎・栗原千絵子「プラセボ・ドリフト再考:プラセボ反応低減の検討」
日常診療でプラシーボを処方されることもある?
プラシーボは、日常的な医療現場でも使われることがないわけではありません。特に、海外では、医師の約17%から80%がプラシーボを処方したことがあると報告されています。
例えば、痛み止めを処方してもなお、痛みを訴える患者がいたとします。しかし、さらに痛み止めを処方すると副作用のリスクが高まるため、それ以上の処方ができない場合があります。そんなときプラシーボを処方することで、副作用の心配なく患者を安心させ、痛みを和らげられることがあります。
このように、プラシーボは決して悪いものというわけではありません。ただし、患者さんに真実を告げずにプラシーボを使用することは、インフォームドコンセント(患者自身が納得した上で治療を受けること)の観点から見ると倫理的にはよいといえないため、現在ではそのようなプラシーボの使用は少なくなってきています。
参考:朝日新聞デジタル「「偽薬」は治療に役立つ 有効成分なくても医師は日常的に処方」
プラシーボか実薬かどうかを見分ける方法
実薬とプラシーボを確実に見分ける方法は、残念ながらありません。プラシーボは実薬と見た目や味が似ているため、専門の知識や技術がないとほとんど見分けることができないのです。
また、臨床試験を含め、医師がプラシーボを処方するときは通常、患者にそれがプラシーボであると明言しません。はじめから偽薬であるとわかっていたら、想定される効果が出ない可能性が高いからです。
ただし、実薬やプラシーボに限らず、自分が飲んでいる薬に不明な点や疑問がある場合は、常に医師に質問することが大切です。自分が受けている治療について理解し、適切な意思決定をするためにも、医師との良好なコミュニケーションが重要となります。
参考:DIPEX JAPAN「特有の仕組み(盲検、プラセボ、ランダム化)」
実薬×プラシーボ効果が得られる医療機関・カウンセリングを見つけよう
プラシーボ効果は、偽薬だけでなく実薬でも得ることができます。それは、医師への安心感や信頼感が影響すると言われています。つまり、同じ医療機関で同じ薬を処方されたとしても、信頼できる医師や親身に相談に乗ってくれる医師からの処方だと、成分以上の効果を感じることができるのです。
近年では、オンライン診療やオンラインカウンセリングが一般的になり、自分の症状にマッチした医師やカウンセラーを見つけやすくなりました。自宅からでも簡単に医師と繋がることができ、通院にかかる時間や手間を省けるだけでなく、全国どこでも選択肢が広がるため、自分に合う医師やカウンセラーを見つけやすいのが特徴です。
オンライン診療はまた、コロナウイルスなどの影響で外出が難しい状況でも安心して利用できます。これにより、プラシーボ効果を最大限に引き出せる可能性のある医師を見つける機会が増えるといえるでしょう。自身にとって最適な医療機関・カウンセリングを見つけることが、健康を守る1番の近道です
まとめ
この記事では、プラシーボ効果について詳しく解説しました。プラシーボ効果は、偽薬だけでなく実薬でも得られ、治療を行う人への信頼感や安心感が大きく影響しています。そのため、適切なケアや治療を受けるために最初にするべきことは、信頼できる医師やカウンセラーを見つけることです。
「こころケア」は、高い専門性と利便性を兼ね備えるオンラインカウンセリングサービスです。心の悩みを持つ人が、自宅など自分に合った場所と時間で気軽に相談できます。信頼できるカウンセラーがきっと見つかるはずですので、ぜひ一度活用してみてはいかがでしょうか。
記事監修
公認心理師 櫻井 良平
国家資格
- 公認心理師
- 精神保健福祉士
- キャリアコンサルタント
- 社会福祉士
- 保育士
所属学会等
- 日本認知療法・認知行動療法学会
- 日本発達障害支援システム学会
(第17回研究セミナー・研究大会において学会賞受賞)
略 歴
- 医療機関や民間のセンター等での対面・電話・オンラインカウンセリング経験が豊富
- 認知行動療法にかかる厚生労働省・国立研究機関主催研修を修了
- 第一線の専門家に師事し、精神分析療法、解決志向短期療法、愛着理論、応用行動分析学等を研究
- 教育・心理・社会保障・保健医療分野における国内外の国際協力プロジェクトへの従事経験を持つ
(開発途上国における「育児・子育て手法」「発達アセスメント・支援ツール」「知能検査」の開発・普及プロジェクト等)