パニック障害の症状と原因とは?パニック障害が起こりやすい人の特徴や治し方を紹介
2024.11.15
パニック障害は突然の恐怖や不安が高まり、パニック発作が起こる病気です。今回は、パニック障害の概要から治療法までをわかりやすく解説します。知識を深めることで、パニック障害を抱える自分自身や周りの人々への理解と対応力を高めることができます。
また、症状を把握し、早期発見・早期対応をするためのヒントも得られます。この情報は、パニック障害について悩んでいるすべての方に役立つでしょう。
パニック障害とは

パニック障害とは、身体的な病気がとくにないにも関わらず、突如として強い恐怖や不安感が押し寄せ、呼吸困難やめまい、動悸などの症状が現れる状態を指します。これを「パニック発作」といい、突然の発症とその激しい症状から、一度経験すると再び起こることへの恐怖や不安から、日常生活が著しく制限されることがあります。
たとえば、パニック発作が起こった場所や状況を避けるようになる、外出を控えるようになるなどです。これが長期化すると、うつ病など他の精神疾患を併発するリスクも高まるため、早期の対応や治療が求められます。
発症しやすい年代・性別
パニック障害は、決して珍しい病気ではありません。全人口の約11%は、生涯に一度だけパニック発作を経験します。そして、その人々のなかで約25%から33%(全人口に換算すると約1.5%から4.7%)が再びパニック発作を経験し、パニック障害へと進行するといわれています。
性別では女性が男性の約2倍多いとされており、青年期に突然発症することが多い傾向です。
パニック障害の主な症状

パニック障害の主な症状に、大きく分けて以下の3種類があります。
【パニック障害の主な症状】
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パニック発作
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予期不安
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広場恐怖
ここでは、パニック障害の主な症状であるパニック発作、予期不安、広場恐怖について、それぞれ具体的な症状とそのときに起こる現象を詳しく解説します。理解を深めることで、早期発見や適切な対応への一歩となる情報となるでしょう。
パニック発作(初期症状)
パニック発作はパニック障害の主な症状であり、これは突然の強い不安や恐怖感による一連の身体的反応です。具体的な症状には、息苦しさ、心臓の動悸、震え、胸の痛み、めまいなどがあります。
この発作は通常10分以内にピークに達し、その後数時間で収まることが多いです。身体の病気を疑い病院を受診しても、異常が見つからない点がポイントです。
予期不安
パニック障害の一つの主要な症状として、「予期不安」があります。予期不安とは、「あの恐ろしいパニック発作がまた起こるのではないか」という恐怖や不安感のことです。予期不安のなかには、死への恐怖や病気の心配のほか、発作を起こして恥ずかしい、助けてくれる人がいなかったらどうしよう、他人に迷惑をかけるかもしれないなど、さまざまな要素が含まれます。
予期不安により発作の再発を恐れ、発作が起こりそうな場所や状況を避ける行動(避ける行動)をとるようになることがあります。これは広場恐怖(アゴラフォビア)とも関連しており、特定の場所や状況(たとえば人混みや公共の場所)から遠ざかることで、発作の可能性を最小限に抑えようとするものです。
この予期不安や避ける行動は、パニック障害が慢性化する一因ともなります。
広場恐怖
パニック障害のなかには、「広場恐怖症」または「アゴラフォビア」を伴う場合があります。広場恐怖は、特定の場所や状況からの逃避や避ける行動を特徴とします。この名称は、古代ギリシャの「agora(市場)」から名付けられてます。文字通りに解釈すれば「広場を恐怖する」という意味となりますが、現代の解釈ではより広範な場所や状況への恐怖や不安を指します。
以前パニック発作を起こした場所や、パニック発作が起きたときに逃げ出すことが難しいか、助けが得られないと感じる場所を避けるようになります。具体的には、公共の交通機関、人混み、閉じた空間(映画館やエレベーターなど)などを避けることが多いです。
そのため、バスや電車に乗れない、一人で外出できなくなったりするなど、日常生活や社会生活に大きな影響を与えることもあります。
パニック障害を起こす原因

パニック障害の発症原因は完全には解明されていませんが、脳内の神経伝達物質の不均衡や、強いストレスが引き金となることが多いと考えられています。神経伝達物質とは、脳内で情報伝達を担当する化学物質で、そのバランスが崩れると感情や行動に影響を及ぼします。強いストレスは、脳を過剰に刺激し、感情のコントロールが難しくなることがあります。
また、遺伝が関係しているという報告もあります。両親や兄弟姉妹のいずれかがパニック障害を持っている場合は、持っていない場合と比べおよそ8倍パニック障害の有病率が高いことがわかりました。
ただし、これらの事象がすべての人にパニック障害を引き起こすわけではなく、個々の体質や生活環境、精神状態などが関わっています。一人ひとりの背景や経験が、症状の発現に大きく影響するのがパニック障害を含めた精神疾患の特徴です。
パニック障害が起こりやすいシーン
具体的なシーンとしては、人前でのスピーチや大きなプレゼンテーション、新たな環境への適応など、緊張や不安を伴う事象がパニック発作を引き起こす引き金となることが多いです。
また、疲れ、カフェイン、タバコなど、身体的・物理的なストレスがかかるようなシーンもパニック発作の引き金となることがあります。
パニック障害が起こり人の特徴
パニック障害が起こりやすい人の特徴は、はっきりとしたものはありません。人見知り・内気・はにかみ・引っ込み思案といった「行動抑制」、また内省的・配慮性・従順・素直・温和といった「メランコリー親和型性格」、そして依存的・回避的といった性格傾向が関係しているという報告もありますが、このような性格傾向を持つからパニック障害となったのか、またはパニック障害になったからこのような性格傾向を持つことになったのかについては、はっきりとした見解はまだありません。
パニック障害の診断基準

パニック発作自体はよくあるものであり、一度パニック発作を起こしただけではパニック障害と診断されません。パニック障害の診断基準はいくつかありますが、日本ではアメリカ精神学会の「DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル」がよく用いられています。「DSM-5」では、初期の症状であるパニック発作として、突然、激しい恐怖または強烈な不快感の高まりが数分以内でピークに達し、その時間内に、以下の症状のうち4つ(またはそれ以上)が起こることを挙げています。
【パニック障害の診断項目】
- 動機、心悸亢進、または心拍数の増加
- 発汗
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身震いまたは震え
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息切れ感または息苦しさ
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窒息感
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胸痛または胸部の不快感
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嘔気または腹部の不快感
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めまい感、ふらつく感じ、頭が軽くなる感じ、または気が遠くなる感じ
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寒気または熱感
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異常感覚(感覚麻痺またはうずき感)
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現実感消失(現実ではない感じ)または離人感(自分自身から離脱している)
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抑制力を失うまたは“どうかなってしまう”ことに対する恐怖
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死ぬことに対する恐怖
ただし、パニック障害と診断するためには、単にパニック発作が起こるだけでなく、その頻度も考慮されます。使用される診断基準によって、必要なパニック発作の頻度が変わります。研究用診断基準(RDC)では、6週間に6回の発作があればパニック障害と診断します。一方、国際疾病分類第10版(ICD-10)では、3週間に3回の発作があれば中程度、4週間に4回の発作があれば重篤な病気とされます。
また、「DSM-5」では以下の条件を満たした場合、初めてパニック障害と診断します。
- 少なくとも1回の発作の後1ヶ月間(またはそれ以上)、以下のうち1つ(またはそれ以上)が続いている:
(1) さらなるパニック発作またはその結果について持続的な懸念または心配(例:抑制力を失い、心臓発作が起こる、どうかなってしまう)(2) 発作に関連した行動の意味のある不適応的変化(パニック発作を避けるような行動)
- その障害は、物質(薬物)または他の医学的疾患(例:甲状腺機能亢進症)によるものではない
- その障害は、以下のような精神疾患ではうまく説明されない。社交不安症、心的外傷後ストレス障害、分離不安症
このように、パニック障害の診断は専門の医師による知識と経験に基づいて行われるため、自己判断をすることは避けてください。不安な症状があれば、必ず医療機関に相談しましょう。
参考:医学書院「DSM-5精神疾患の診断・統計マニュアル」
参考:医学書院「ICD-10精神および行動の障害臨床記述と診断ガイドライン(新訂版)」
参考:メディカルサイエンスインターナショナル「カプラン臨床精神医学テキスト」
パニック障害の治し方

パニック障害の治し方には、いくつかの方法があります。主なものとしては、薬物療法と認知行動療法があります。
【パニック障害の治し方】
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薬物治療
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カウンセリング・認知行動療法
パニック障害の治療にはさまざまなアプローチがありますが、とくに有効性が認められているのがこの2つです。これらの方法は科学的な根拠に基づいており、パニック障害の症状の軽減や再発防止に大いに役立つとされています。以下では、具体的な治療法とその効果について詳しくご紹介いたします。
薬物治療
薬物治療とは、パニック障害の症状を和らげるために薬を用いる治療法です。脳内の神経伝達物質のバランスを整えることで、突然の恐怖や緊張感を減らし、パニック発作の頻度と重症度を軽減します。
主に使用される薬物は、抗うつ薬や抗不安薬などです。まずは、パニック発作を起こさないことと予期不安を軽くすることを狙って、抗うつ薬を用いることが多いです。抗うつ薬の効果が出るまでは最低でも1週間ほど、平均では1ヵ月以上かかるため、その間に発作が頻繁に起こる場合は抗不安薬を追加することがあります。これらの薬は医師の指導のもと、症状の重さや患者さんの体質に合わせて適切な用量が処方されます。
薬物療法は、精神科の医師や精神科専門のクリニックで受けられます。自己判断での服薬や断薬は危険なため、必ず医師の診察を受け、指示に従って服薬することが重要です。
カウンセリング・認知行動療法
カウンセリング・認知行動療法は、パニック障害の治療に有効な心理療法の一種です。誤った思考パターンや行動を見つけ出し、それを正すことで症状の改善を目指します。
とくに、認知行動療法は、不安を引き起こす思考パターンを特定し、それに対する理解と対処法を学ぶことで、パニック障害の症状を抑制します。たとえば、パニック発作が起こるため電車に乗れない人に対する認知行動療法では、電車に乗ることに対する恐怖感を理解し、それに対処する技術を習得します。
まず、恐怖感の原因やパニック発作が起こる状況を特定し、それについての考え方を再評価します。たとえば、「電車に乗るとパニック発作が起こる」という思考を「もし発作が起こったら、落ち着いて対処できる」と再解釈します。次に、徐々に恐怖を引き起こす状況にさらされる「曝露療法」を行います。始めは駅まで行くだけかもしれませんが、徐々に乗車時間を延ばすなどして、恐怖感と向き合います。
認知行動療法は専門的な知識と技術を必要とするため、専門医や心理療法士のいる医療機関で行われます。しかし、そうした施設が近くにない場合でも、カウンセリングについてはオンラインカウンセリングサービス「こころケア」を活用することで、自宅からでも受けることが可能です。
オンラインカウンセリングの最大のメリットは、時間と場所の制限がないことです。また、「こころケア」は経験豊富なカウンセラーが揃っており、自身に合ったカウンセラーを選べるのも大きな利点です。病院への移動時間や待ち時間を考えれば、生活スタイルに馴染みやすく、治療の一環として無理なく取り入れられます。
パニック障害に関するよくある質問

パニック障害は、理解されにくい病気の一つかもしれません。それは、その症状が一人ひとりで異なるため、特定の状況や引き金が存在しないからです。また、突然に発症することもあり、その発作が起こる原因もはっきりとは分かっていません。
それでも、パニック障害についての知識を深めることで、自分自身や他人の症状を理解し、適切な対処法を見つけることができます。そのためには、パニック障害に関する一般的な疑問に対する回答が役立つでしょう。
以下では、パニック障害についてよくある質問とその回答をご紹介します。その内容を通じて、パニック障害に対する理解を深め、必要なときに適切な対応ができるようになることを願っています。
パニック障害を放置するとどうなりますか?
パニック障害を放置すると、その影響は身体的、精神的、社会的な生活の各面で大きくなります。まず、パニック発作の経験は非常に恐ろしいものであり、再発を恐れて特定の場所や状況(たとえば混雑した場所や一人でいる場所)を避けるなど、日常生活が制限されることがあります。
また、長期的にはパニック障害が引き金となって他の精神疾患が発生する可能性もあります。たとえば、うつ病や他の不安障害、物質使用障害などが併発することがあります。これらの病状は生活の質を大きく低下させ、自己療法としてアルコールや薬物に頼る人もいるため、更なる問題を引き起こす可能性があります。
さらに、これらの症状は社会生活にも影響を及ぼします。学校や職場への出席が困難になったり、日常生活の楽しみや人間関係が制限されたりすることがあります。その結果、社会的孤立や職業的な困難を経験する可能性があります。
発症したら日常生活でどのようなことに気をつけたらいいですか?
パニック障害を発症した場合、日常生活で気をつけるべきいくつかの点があります。以下に具体例をご紹介します。
- 治療の重要性:
まず、医師の指導のもとで適切な治療を受けることが最も重要です。薬物療法や認知行動療法などが効果的な治療法として広く知られています。自分自身で症状を管理しようとせず、医療スタッフの助けを借りることが大切です。調子が良くても自己判断で薬を止めたりすると、症状がよりひどくなることがあります。副作用など心配な点がある場合は、医師とよく相談してください。
- 健康的な生活習慣:
アルコールやカフェインの摂取を制限するなど、健康的な生活習慣を維持することが重要です。これらの物質はパニック発作を引き起こす可能性があります。また、定期的な運動や十分な睡眠、規則正しい生活も心身の健康を保つために役立ちます。
- ストレスを溜めない:
パニック障害はストレスと関連していると考えられています。ストレスを溜めない生活を心がけましょう。深呼吸や瞑想などの習慣もうまく取り入れるとよいですね。
- 社会的サポート:
パニック障害を理解し、サポートしてくれる友人や家族を大切にしましょう。
記事監修
公認心理師 櫻井 良平
国家資格
- 公認心理師
- 精神保健福祉士
- キャリアコンサルタント
- 社会福祉士
- 保育士
所属学会等
- 日本認知療法・認知行動療法学会
- 日本発達障害支援システム学会
(第17回研究セミナー・研究大会において学会賞受賞)
略 歴
- 医療機関や民間のセンター等での対面・電話・オンラインカウンセリング経験が豊富
- 認知行動療法にかかる厚生労働省・国立研究機関主催研修を修了
- 第一線の専門家に師事し、精神分析療法、解決志向短期療法、愛着理論、応用行動分析学等を研究
- 教育・心理・社会保障・保健医療分野における国内外の国際協力プロジェクトへの従事経験を持つ
(開発途上国における「育児・子育て手法」「発達アセスメント・支援ツール」「知能検査」の開発・普及プロジェクト等)