コラム

認知の歪みとは?パターンやチェック方法、治し方をわかりやすく解説

認知行動療法

認知の歪みとは、物事を自分の考え方に沿って解釈し、客観視しづらくなっている状態のことです。認知の歪みが強くなり、改善できない場合、思い悩んで自分を苦しめる可能性があります。

そこで本記事では、代表的な認知の歪みのパターンや、認知の歪みの改善方法を解説します。今現在、認知の歪みで苦しんでいる人や、認知の歪みを改善したい人はぜひ参考にしてみてください。

認知の歪みとは

認知の歪みとは、物事の捉え方に歪みがあるとされていることです。受け取った情報を自分の思考に沿って解釈することで、客観的な意見が受け入れられなくなっている状態を指します。

たとえば、職場で上司から仕事の仕方について指摘をされたとします。ある人は、自分の行いをあらためるために反省し、上司のアドバイスを次に活かそうとするでしょう。一方で、ある人は「なぜ自分がこんなことを言われなくてはならないんだ」とイライラします。あるいは「なんて自分はダメなビジネスパーソンなんだ」と自己嫌悪に陥る人もいるでしょう。

このように、上司から指摘を受けたという事実は同じでも、人によって受け取り方が異なる場合があります。認知の仕方は人それぞれで異なることを理解し、さまざまな角度で物事を捉えられる視野を持つことが重要です。

認知の歪みの代表的な10パターン

認知の歪みの理論は、1976年に心理学者であるアーロン・ベックによって提唱されました。その後、デビッド・バーンズによってさまざまなパターンに分けられ、認知の歪みに対する知見が広まっています。

今回は、認知の歪みの代表的な10個のパターンを紹介します。

全か無か思考 全ての物事は白か黒かで判断しなければ気が済まない思考のこと

過剰な一般化 たった1度起きたことが、どんな状況でも起こり得ると認識してしまうこと
マイナス思考 良いことがあっても受け入れず、全ての事柄を悪いことに捉えてしまう思考のこと
結論への飛躍 根拠がないにもかかわらず、悲観的な結論を出してしまう状態のこと
こころのフィルター 1つの良くないことが起きたことで、悪いことばかりに目を向けてしまうこと
感情的な決めつけ 自分が抱く感情によって現実が左右されてしまうと考えてしまう状態のこと
拡大解釈・過小評価 自分の短所やミスを過大に捉える一方で、成功体験や長所を過小評価すること
レッテル貼り 1つのミスで「自分はなんてダメな人間なんだ」などとレッテルを貼る状態のこと
個人化 なにか良くないことが起きたとき、自分に関係のないと思われることでも、自分の責任で問題が起きたと捉える状態のこと
「すべき」思考 あらゆる出来事や物事に対し「〜であるべき」や「〜すべき」と決めつけてしまう状態のこと

いずれも自分の解釈で物事を捉え、思い込むことで認知の歪みが発生する傾向があります。

全か無か思考

全ての物事を白か黒かで判断しなければ気が済まない思考のことです。別名、「オール・オア・ナッシング」と呼ばれています。

たとえば、職場で部下が起こした1度のミスに対し、上司が「◯◯君はできない部下だ」と考えたとします。これは全か無か思考に陥っているといえるでしょう。100%完璧な人間は存在しません。人間誰しもミスをします。にもかかわらず、たった1度のミスでその人の能力がないと判断するのは早計です。

全か無か思考は、完璧主義な人が陥りやすい傾向にあります。相手が起こす言動にだけでなく、自分の言動に対して満足できなくなることもあるでしょう。

過剰な一般化

たった1度起きたことが、どんな状況でも起こり得ると認識してしまうことを指します。

たとえば、サッカーの試合で選手がシュートを外してしまったとしましょう。たった1度のミスなのに、「いつも自分はシュートを外してしまう…才能がない」と失望してしまう状態は、過剰な一般化といえます。

ネガティブ思考の人が陥りがちな状態であり、この考え方が定着すると、憂鬱な気分になりやすくなってしまうでしょう。

マイナス思考

良いことがあっても、受け入れられず、全ての事柄を悪いことに捉えてしまう思考のことです。

たとえば、マイナス思考の人は、試験で98点の高得点を取ったにもかかわらず、「なぜあと2点取れないんだ」と自分を責めてしまいます。

良いことが起きたのにそれを良いことと認められない状態が続くと、やはり憂鬱な気分に陥りやすくなってしまいます。

結論への飛躍

根拠がないにもかかわらず、悲観的な結論を出してしまう状態のことです。

結論の飛躍は、「心を読みすぎること」と「先読みの誤り」の2種類が挙げられます。

たとえば、会社で部下が上司に挨拶したのに返事が返ってこなかったとしましょう。このとき部下が「自分は上司に好かれていないんだ」と考えた場合、もしかしたら結論への飛躍の「心の読みすぎること」に該当するかもしれません。実際は上司が単純に部下の声を聞きとれず、反応できなかっただけなのかもしれないからです。

また、たとえば重い病気にかかってしまい、長期間入院を余儀なくされたとしましょう。このときに「自分はもう助からないかもしれない」と根拠なく決めつけてしまう場合は、結論への飛躍の「先読みの誤り」に該当します。

こころのフィルター

1つの良くないことが起きたことで、悪いことばかりに目を向けてしまうことです。

たとえば、大好きな遊園地で楽しく遊んでいたのに、乗りたかったアトラクションが1つだけ休止していてその日は乗れなかったとします。このことが原因で、後から思い返したときにアトラクションに乗れなかったことばかりが頭をよぎり、「今日はなんて最悪な日だ」と考えてしまうことが、こころのフィルターに該当します。

感情的な決めつけ

自分が抱く感情によって、現実が左右されると考えてしまう状態のことです。

たとえば、仕事でプレゼンの機会が控え、大きな不安を抱えているとします。このときに「不安でしょうがない状態だから、プレゼンが失敗に終わるかもしれない」と考えてしまう状態が、感情的な決めつけに該当します。

拡大解釈・過小評価

自分の短所やミスを過大に捉える一方で、成功したことや自分の長所を過小評価することを指します。

たとえば、仕事でちょっとしたミスをしただけなのに「自分はなんてダメな人間なんだ」と落ち込んだり、仕事で良い成績を出したにもかかわらず「大した結果ではない」と考えたりしてしまうことが、これに当たります。

レッテル貼り

たった1つのミスで、「自分はなんてダメな人間なんだ」などとレッテルを貼ってしまう状態のことです。「過剰な一般化」が極端に行き過ぎた状態ともいわれています。

些細なミスで自己嫌悪に陥り、自分に対して良くないレッテルを貼ってしまうケースが多く見受けられます。

個人化

なにか良くないことが起きたとき、自分に関係のないと思われることでも、自分の責任で問題が起きたと捉える状態のことです。

たとえば、「友人が非行に走ったのは自分が友人を見守れなかったからだ」とか「弟が不登校になったのは自分のせいだ」などと捉えてしまうことが、個人化に該当します。

「すべき」思考

あらゆる出来事や物事に対し、「〜であるべき」や「〜すべき」と決めつけてしまう状態のことです。

たとえば、「親は子どものことを全て理解しておくべき」とか「教師は生徒のことを理解するのが当然だ」と決めつける状態も、「すべき」思考に陥っているといえます。

認知の歪みが起こる原因

認知の歪みが起きるのには、「自動思考」が関係しています。自動思考とは、無意識に頭に思い浮かぶ思考のことです。この自動思考によって、人は無意識に認知の歪みを起こしています。

しかし近年では、認知の歪みを特性と捉える考え方も広まってきました。なぜなら、人の感性はさまざまであり、認知の歪みがまったくないと言える人はそもそも存在しないからです。そのため、自分の人と異なる認知の仕方を特性と捉え、他人の認知の歪みについても理解する姿勢を持つことが大切です。

認知の歪みのチェック方法

認知の歪みをチェックする方法は主に2つあります。

1つ目は、セルフチェックする方法です。インターネットのサイト上で質問に答えることで、無料でチェックできます。

2つ目は、専門家のカウンセリングを受ける方法です。自分が現在どのような状態でいるのか、より客観的かつ専門的に把握したい場合は、公認心理師をはじめとしたカウンセラーと相談することをおすすめします。

認知の歪みの治し方

認知の歪みの治し方は、主に以下2つの方法があります。

  • 自分の考え方の癖を知る
  • 認知行動療法に基づいたカウンセリングを受ける

自分の考えや感情を紙に書き出したり、専門家のカウンセリングを受けたりすることで、自分の思考の癖が把握しやすくなります。自分の思考の癖がわかれば、自分の思考が認知の歪みのどのパターンに該当するかがわかります。パターンを特定できれば、行動を変えることができ、感情や思考まで変化しやすくなるでしょう。

自分の考え方の癖を知る

自分の考え方の癖を知るためにおすすめなのが、感情を紙に書き出すことです。身の回りで起きた出来事に対し、自分がどう感じ、周りの人に対してどう思ったかをまとめましょう。

「相手はおそらくこう思っているが、自分はあのときこう思った」という具合に、感じたことをありのままに書き出してみてください。書き出した後は、代表的な認知の歪みのパターンに照らし合わせ、自分がどのパターンの思考をすることが多いか確認します。

確認ができたら、後は行動を変えるだけです。人の感情は意識的に変えることが難しいですが、行動なら変えられます。少しずつ行動を変えていけば、考え方の癖も変わり始め、やがて感情も変えることができるでしょう。

認知行動療法に基づいたカウンセリングを受ける

認知の歪みを治す方法として最も効果的なのが、認知行動療法に基づいたカウンセリングを受けることです。資格を持った公認心理師や臨床心理士のカウンセリングを受けることで、自分では気づけない思考の癖がつかみやすくなります。

日頃は忙しくてカウンセリングを受けに行く余裕がないという人は、オンラインカウンセリングがおすすめです。オンラインカウンセリングは、インターネット接続ができ、プライバシーが守られ安心して話せる場所であれば、どこからでも利用可能で、主に以下のようなメリットがあります。

  • スケジュールの調整がしやすい
  • 地方や海外在住でも利用しやすい
  • 自宅からリラックスした状態で臨める

また、どこでカウンセリングを受けたらよいか迷っている方は、「こころケア」のオンラインカウンセリングを利用してみてはいかがでしょうか。

「こころケア」には、医療機関での臨床経験のあるカウンセラーが在籍していますので、一人ひとりに丁寧に寄り添い、専門家ならではの心理的サポートを受けられます。

まとめ

認知の歪みとは、物事の捉え方に歪みが生じている状態を指します。受け取った情報を自分の思考に沿って解釈することで、客観的な意見が受け入れられなくなっている状態です。

認知の歪みにはさまざまなパターンがあるため、改善するには各パターンの特徴を踏まえ、自分の思考がどれに該当するかを把握することが大切です。まずは簡易テストによるセルフチェックや、専門家が在籍しているオンラインカウンセリングの利用を検討してみてはいかがでしょうか。

自分では気づけない思考の癖を知り、認知の歪みの改善を図っていきましょう。

 

記事監修

公認心理師 櫻井 良平

監修者写真兼カウンセラー写真

国家資格
  • 公認心理師
  • 精神保健福祉士
  • キャリアコンサルタント
  • 社会福祉士
  • 保育士
所属学会等
  • 日本認知療法・認知行動療法学会
  • 日本発達障害支援システム学会
    (第17回研究セミナー・研究大会において学会賞受賞)
略 歴
  • 医療機関や民間のセンター等での対面・電話・オンラインカウンセリング経験が豊富
  • 認知行動療法にかかる厚生労働省・国立研究機関主催研修を修了
  • 第一線の専門家に師事し、精神分析療法、解決志向短期療法、愛着理論、応用行動分析学等を研究
  • 教育・心理・社会保障・保健医療分野における国内外の国際協力プロジェクトへの従事経験を持つ
    (開発途上国における「育児・子育て手法」「発達アセスメント・支援ツール」「知能検査」の開発・普及プロジェクト等)