社交不安障害の症状と原因とは?診断基準や治し方を解説します!
社交不安障害は、人前で話す、新しい人と会う、注目を浴びるといった社会的な状況に、極度に恐怖や不安を感じる精神疾患です。
この記事では、その原因から症状、治療方法について解説します。この記事を読めば、社交不安障害の理解が深まり、いざというときにどのように対処すればよいかを知ることができます。この情報は、社交不安障害に悩む方々はもちろん、周囲の人々の理解とサポートを深めるためにも役に立つでしょう。
社交不安障害とは
社交不安障害、または「社会不安障害」や「あがり症」とも称されるこの病気は、一般的には人前に出る場面や社会的な状況において、強い不安や恐怖、緊張を感じる病気です。英語では「Social Anxiety Disorder」といい、略して「SAD」とも呼ばれます。日本では、全人口の1〜2%あまりが社交不安障害であるといわれています。他の不安障害やうつ病、双極性障害、物質関連障害など他の精神疾患との合併が見られることも特徴の一つです。
具体的な症状としては、会議での発言やパーティーなどの社交場、人前でのパフォーマンスなどで、何か失敗して自分が恥をかくのではないかという恐怖や不安が膨らみます。場合によっては、極度の緊張感から体調を崩すこともあります。
一見すると、ただの内気な性格や恥ずかしがり屋のように見えるかもしれません。この病気の特徴は、これらの感情が個人の日常生活や社会生活を著しく制限し、苦痛を引き起こすほど重度である点です。
社交不安障害は、幼少期や学童期など比較的早い年齢で発症することがあります。そのため、これを「ただの性格」だと思い込んで放置してしまうことがよくあります。しかしながら、自然と症状が改善することはあまりないため、治療を受けないままにしてしまうと、その人の長い人生にわたって大きな制約をもたらす可能性があります。そのため、早期に症状を認識し、適切な治療を受けることが大切です。
社交不安障害の症状
社交不安障害の症状は、人と会って話すとき、とくに大勢の人がいる場所や初対面の人と会うときに、過度に緊張したり、恥をかくのではないかという不安を感じたりすることです。動悸やめまい、吐き気などの自律神経の症状が起こるのも特徴の一つです。不安の結果、人前で話すことや注目されることを極度に恐れ、避けるようになることがあります。また、他人に評価される状況を避けたり、批判されたりするのを過剰に恐れる傾向もあります。
このような症状は日常生活を大きく制限し、仕事や学校、対人関係などに支障を来すこともあります。また、予定された社会的な活動に対して数日間も前から不安を感じてしまうこともあります。症状は人により程度に差があり、軽度なものから、日常生活が困難になるほど重度なものまであります。
症状が出やすい苦手なシーン
社交不安障害の症状は、以下のように、他人の前で何かをしなければならない状況や、他人との対人関係が求められる状況で症状が出やすい傾向です。
- 大勢の人の前で話す(発表やプレゼンテーション)
- 人とのコミュニケーション
- 人前でスポーツや楽器の演奏をする
- 電話対応
- 会議
- パーティー
- 初対面の人と話す
- 注目を浴びる
- 食事や飲み物を人前でとる
- 電話対応
- 試験や仕事の面接
- 美容院・理容室、アパレルショップなど店員との距離が近い店
- 合コンやデートなど、異性と触れ合う場面
社交不安障害の自律神経症状
社交不安障害では、主に以下のような症状が見られます。
- 胸のドキドキ
- めまい・吐き気
- 口が渇く
- 赤面する
- 息苦しさ
- 冷や汗
- 手の震え
社交不安障害の原因
社交不安障害の原因は、まだ完全には解明されていません。複雑な心のメカニズムが関与しており、一つの要素を指摘することは困難です。
最近の研究では、心の働きを制御する神経伝達物質、セロトニンとドーパミンの機能障害が関連しているという報告が出ています。これらの物質は、我々の心情や感情を調節する役割を果たしており、そのバランスが崩れることで、人との交流を恐れる社交不安障害が生じるのではないかと考えられています。
しかし、なぜこれらの神経伝達物質のバランスが崩れるのか、その原因は明らかではありません。遺伝的な要因、つまり親から子へと遺伝子レベルで引き継がれる要素や、成長過程での環境的な要因が複雑に絡み合い、神経伝達物質のバランスを崩す引き金になるのではないかと考えられています。
ただし、これらはあくまで一つの見方であり、社交不安障害の原因となる要素は他にもさまざま考えられています。症状を改善するためには、一人一人の状況に応じた適切なアプローチが必要となります。
以下では、社交不安障害の原因として今注目を集めている3つについて簡単に解説します。
幼少時代の環境
生活環境における幼少期の経験が、社交不安障害の発症に影響を与えるという説があります。たとえば、過保護な親に育てられたり、いじめや虐待の経験があったりすると、他人との関わりを恐れ、社会的な場面での不安を抱く傾向が強まるとされています。
また、自己評価が低い、否定的な自己イメージを持つ、周囲の期待に応えるプレッシャーを感じやすいなどの性格的特徴も、社交不安障害の発症に関係する可能性があります。
過去の失敗体験
人は過去の失敗体験から、同じような状況に置かれると再び失敗するのではないかという恐怖や不安を抱くことがあります。これが社交の場面で繰り返されると、人前に出ること自体が恐怖となり、社交不安障害へと発展する可能性があります。
社会的な立場の変化
社会的な立場の変化が社交不安障害の一因となるとする研究もあります。立場の変化とは、たとえば学校や職場などでの役割の変化、人間関係の変動、新たな環境への移行などを指します。
これらの変化は、人とのコミュニケーションや社会的な期待に対するプレッシャーを増加させることがあり、特に敏感な人々に対しては、社会的な状況への過度な不安感を引き起こす可能性があります。
社交不安障害の診断基準
社交不安障害の診断は、主に医師によって行われます。その際に参照されるガイドラインとしては、アメリカの精神医学会が提供する「精神疾患の分類と診断の手引き(DSM-5)」や、世界保健機関(WHO)編の「精神および行動の障害の国際分類(ICD-10)」などがあります。
ここでは、比較的分かりやすいICD-10の診断基準について紹介します。ICD-10では、特定の社会的状況に対する恐怖感や避ける行動、過度の緊張や不安感などが1ヵ月以上続く場合に、社交不安障害の可能性が考えられます。
- A. 比較的小さなグループで、他人にじろじろ見られることが恐怖の中心であり、ふつう社会的場面を避ける。
- B. 通常、自己評価が低く批判を恐れる。
- C. パニック発作にいたり得る、赤面、震え、嘔気、尿意頻迫が訴えられることがある。
- D. 恐怖状況を避けるか、強い不安をもって耐える。忌避がしばしば著明、ほぼ完全な社会的ひきこもりがみられることがある。
- E. 不安は特別な社会的状況にしばしばみられるか、それに限られる恐怖をもつ状況を可能なら避ける。
- F. 社交不安障害と広場恐怖の区別が困難な場合は、広場恐怖が優先される。パニック障害は、恐怖症のない場合のみ診断される
※ 社交不安障害は、限局型(公衆の場面での食事、異性とのつきあい、人前でのスピーチなどに限られる場合)と、びまん型(ほとんどすべての社会的状況が関与する場合)に分けられる
しかし、これらの診断基準はあくまで医師が診断を行うためのもので、自己判断には向きません。自己判断により、病状の進行や適切な治療機会を逃す可能性があります。また、社交不安障害と似たような症状を現す他の病気との区別をきちんとつける必要があります。
社交不安障害の症状に悩まされている方、または身近な人が該当するかもしれないと思われる方は、早めに医療機関に相談し、適切なアセスメントを受けることを強くおすすめします。
社交不安障害の治し方
社交不安障害の治し方には、薬物療法と認知行動療法があります。
【社交不安障害の治療方法】
- 薬物療法
- 認知行動療法
社交不安障害の治療の際には、患者さんの希望に沿いながら、どちらかの治療のみを行う場合もあれば、薬物療法と認知行動療法を組み合わせて行う場合もあります。ここでは、それぞれの治療法についての概略をわかりやすく説明いたします。
薬物療法
社交不安障害の治療方法の一つに、薬物療法があります。薬物療法とは、主に医師の指導のもと、薬剤を用いて症状の緩和や改善を目指す方法です。
社交不安障害においては、抗不安薬や抗うつ薬などが主に使用されます。これらの薬は、脳内の神経伝達物質のバランスを調整し、過剰な緊張や不安感を抑える作用があります。これにより、社会的な場面での強い恐怖感や緊張を緩和し、日常生活を送る上でのストレスを軽減します。
また、動悸・発汗・震えなど身体に現れる症状を抑えるために、ベータ遮断剤を頓服薬として使用することもあります。頓服薬には、持ち歩くことで不安を解消するという効果も期待できます。実際に使用しなくても、「いざというときにこれを飲めば良い」と思うことで症状が落ち着くことがあるのです。
ただし、これらの薬物は病院や診療所などの医療機関で、医師の診断のもとに処方されます。自己判断での服用や中止は避け、必ず医師の指示に従ってください。
認知行動療法
認知行動療法は、心の問題を解決するための一つの手法で、その効果は社交不安障害の治療においても確認されています。この療法は、心の中にある「認知」(考え方や信じ方)と「行動」(その考え方に基づく行動)の関連性に焦点を当て、問題の本質を理解し、自己改善につながるように促します。
社交不安障害に対しての認知行動療法は、患者が自身の考え方や感じ方、そして行動について自己理解を深め、恐怖心を抱き続ける原因となる認知パターンを特定します。そして、その認知パターンを変え、より現実に即した健全な認知パターンに置き換える手法を学びます。
認知行動療法は、医療機関や専門のクリニック、カウンセリングセンターなどで提供されています。また、専門家と直接面会するだけでなく、オンラインでのセラピーも一般的になりつつあります。この治療法は、自分の心の状態を理解し、問題解決のためのスキルを身につけることを目指すため、社交不安障害で悩んでいるすべての方に有効な手法だと考えます。
関連記事:認知行動療法とは?具体的なやり方や受ける前に知っておきたいことを解説
社交不安障害に関するよくある質問
社交不安障害について理解を深めるうえで、ご自身の状況についての疑問や心配、そして、実際の治療方法についての質問が生じることは自然なことです。当然、これらの質問に対する答えを知ることは、自分自身または他の人が社交不安障害を経験している場合に、適切な対応を行うために不可欠となります。
ここでは、社交不安障害についてよくある質問にお答えします。私たちがこの情報を提供する目的は、社交不安障害についてより深く理解し、自分自身または他の人を支えるための具体的なステップを見つける手助けをすることです。どんな質問も小さな一歩となり、理解と共感の道を開くことにつながります。
人前で話すのが苦手なことは社交不安障害?
人前で話すのが苦手ということ自体が、必ずしも社交不安障害を意味するわけではありません。多くの人々が何らかの形で公の場でのスピーチやプレゼンテーションに対する緊張を経験します。これは普通の反応であり、一般的に「あがり症」と呼ばれます。
一方で、その緊張感や恐怖が過度であるか、または不適切な状況で感じるもので、日常生活や社会生活を著しく制約するようであれば、それは社交不安障害である可能性があります。社交不安障害は、日常的な社会的な状況に対する過剰な恐怖や不安を特徴とし、その恐怖は人前で話すだけでなく、他の社会的な状況でも生じるからです。
つまり、人前で話すのが苦手なことが社交不安障害であるかどうかを判断するためには、その不安がどの程度のもので、どの程度日常生活に影響を及ぼしているかを評価する必要があります。そして、その評価は専門医によって行われるべきです。気になることがあれば、まずは病院を受診してみるとよいでしょう。
社交不安障害は治る病気ですか?
社交不安障害は、適切な治療を受けることで、症状を大幅に軽減し、日常生活を充実させることが可能な精神疾患です。治療方法は個々の症状や生活環境などにより異なりますが、認知行動療法や薬物療法などが一般的に用いられます。
治療により、恐怖や不安を感じる場面に対処する能力が向上し、症状が軽減することで社交場面でのストレスや不安を管理することが可能になります。ただし、"完全に治る"という言葉は注意が必要です。なぜなら、社交不安障害は一度治療を受けたからといって、再び症状が出ることがないとは限らないからです。
それでも、適切な治療と自己管理により、社交不安障害の症状をコントロールし、日常生活をよりよく生きることは十分可能です。重要なのは、自分自身の状態を理解し、必要な支援を求める勇気を持つことです。また、定期的に医師やカウンセラーとの診察やカウンセリングを継続することも、病状を管理するうえで重要となります。
社交不安障害と診断されたら職場の人に伝えるべき?
社交不安障害と診断された場合、職場の人に伝えるべきか否かは個々の状況と個人の選択によって大きく異なります。職場の人に伝えることで理解や支援を得られる可能性がある一方で、不適切な反応や偏見に直面するリスクもあるからです。
働きやすさや心の安定を考えると、社交不安障害が職場でのパフォーマンスに影響を及ぼす場合、または特定の配慮や支援が必要な場合は、伝えることを考えてみると良いでしょう。しかし、その際は適切なタイミングと相手、そしてどのように伝えるかを慎重に考慮することが重要です。
主治医と相談しながら、自分にとって最善の対応を見つけるのが良い方法です。個々の状況や職場環境など、多くの要素が関わるため、一概には答えることが難しいですが、自分自身のため、そして周囲と良好な関係を保つためにも、適切な対応を模索してください。
社交不安障害は一度克服したら再発しない?
社交不安障害については、一度克服したとしても再発の可能性は否定できません。治療を受けて症状が軽減または消失した後も、新たなライフイベントやストレス状況、体調の変化などがきっかけとなって症状が再発することがあります。そのため、症状が改善したからといって治療を自己判断で中止するのは推奨できません。
治療の中止や調整は、必ず専門医と相談し、その指導に従うことが重要です。また、自分自身の心の状態を観察し、症状が再び現れたときは早めに専門医に相談することが再発の管理には必要です。再発に備えて、ストレスマネジメントやリラクゼーション技法、適切な生活習慣など、日常生活で心の健康を保つための自己ケアも重要です。
まとめ
社交不安障害についての基本的な事柄をまとめました。社交不安障害に悩む人にとって、一歩を踏み出すことは難しいかもしれません。しかし、その一歩が大きな転換点になりうることを忘れないでください。その一歩とは、専門的な助けを求めることです。そこでおすすめしたいのが、「こころケア」のオンラインカウンセリングサービスです。
「こころケア」には、豊富な専門知識を持つカウンセラーが在籍しています。一緒に、この問題を乗り越えていきましょう。
記事監修
公認心理師 櫻井 良平
国家資格
- 公認心理師
- 精神保健福祉士
- キャリアコンサルタント
- 社会福祉士
- 保育士
所属学会等
- 日本認知療法・認知行動療法学会
- 日本発達障害支援システム学会
(第17回研究セミナー・研究大会において学会賞受賞)
略 歴
- 医療機関や民間のセンター等での対面・電話・オンラインカウンセリング経験が豊富
- 認知行動療法にかかる厚生労働省・国立研究機関主催研修を修了
- 第一線の専門家に師事し、精神分析療法、解決志向短期療法、愛着理論、応用行動分析学等を研究
- 教育・心理・社会保障・保健医療分野における国内外の国際協力プロジェクトへの従事経験を持つ
(開発途上国における「育児・子育て手法」「発達アセスメント・支援ツール」「知能検査」の開発・普及プロジェクト等)