ADD(注意欠陥障害)とは?ADHDとの違いやチェック方法、治療法まで
近年、「発達障害」という言葉とともに知られるようになった「ADD(注意欠陥障害)」。しかし、現在では、新たに診断される場合は、ADDではなく別の診断名が使われるようになりました。
この記事ではADDの定義やADHDとの違いを詳しく解説しています。また、診断基準やどのような治療法があるのかにも触れていますので、自分自身や家族に心当たりがあったり、お悩みを抱えていたりする方はぜひ参考にしてください。
ADD(注意欠陥障害)とは
ADD(注意欠陥障害)とは、不注意と衝動性により、幼稚園や学校、家庭などの日常生活において困りごとが起こる状態や特性のこと。典型的な特性は、就学前に現れることが多いことも知られています。
ADDの人に起こりやすいとされる主な困りごとは、以下のとおりです。
- 集中力が持続しない
- スケジュールを管理することが苦手
- 忘れ物が多い
- 整理整頓が苦手
上記の特徴が見られた場合、ADDの可能性があります。
ADDとADHDの違い
では、似たような言葉でよく目にするADHDとADDは、どういった点が異なるのでしょうか。
ADDとADHDの大きな違いは「多動性」
多動性とは、じっとしていることが苦手で動きたくなる特性のこと。多動性が認められる場合、椅子に座っていられなかったり、衝動的に動いてしまったりすることがあります。
多動性は英語で「Hyperactivity」と表記し、ADHDのHはこの多動性を指します。つまり、ADDとADHDの大きな違いは、多動性の有無ということです。
ADDは以前使用されていた診断名
実は、ADD(注意欠陥障害)はかつて使用されていた発達障害の診断名で、現在の診断基準では「不注意優勢型ADHD」とADHDの一種に分類されます。そのため、以前の基準でADDと診断されているケースがあるかもしれませんが、新たに診断される場合にADDと診断されることはありません。
先ほど多動性について触れましたが、注意だけでなく多動性を重要視するようになったため、ADHDが一般的な診断名になったという経緯があります。注意欠陥も、とらえ方によっては「脳内の多動」とされるため、ADDはADHDに含まれるようになったのです。
ADDはADHDの「不注意優勢型」に分類される
ADHDは以下の3つのタイプに分類されます。
- 不注意優勢型
- 多動性-衝動性優勢型
- 混合型
ADD(注意欠陥障害)は今、ADHDの不注意優勢型と診断されるようになりました。不注意優勢型は、実際の行動において、多動の症状はほとんど見られず、不注意と衝動性が顕著なのが特徴です。そのため、もともとADHDからHyperactivity(多動性)のHを除いたADDは、ADHDの不注意優勢型に分類されています。
関連記事:ADHDとは?ADHD(注意欠陥・多動性障害/注意欠如・多動症)の特徴や診断基準・改善方法について解説
不注意優勢型ADHD(ADD)の症状
先述のとおり、不注意優勢型ADHDには以下のような症状がみられます。
- 注意欠如
- 衝動性
ここからはそれぞれの症状について、具体的な特性を解説しましょう。
注意欠如
注意欠如とは、注意や関心を維持することが難しいこと。そのために、日常生活において以下のような困りごとが頻繁に起こります。
- 物をよくなくす
- 気が散りやすい
- 整理整頓が苦手
たとえば、学校に出発する時間が決まっているのに、着替えの最中に近くに置いてあったカードゲームのカードが気になって見始めて、気がつくと出発する時間を過ぎていたといった具合です。
衝動性
衝動性とは、欲求や感情のコントロールが難しく、思いついたことをすぐに実行してしまうこと。衝動性の特性があると、以下のような症状がみられます。
- 思いついたままに話をする
- 順番が待てない
- 感情の起伏が激しく、かんしゃくを起こすこともある
衝動性は幼少期に目立ちやすい症状で、大人になると落ち着きやすい傾向にあります。
不注意優勢型ADHD(ADD)の診断基準
アメリカ精神医学会(APA)のDSM-5(「精神疾患の診断・統計マニュアル 第5版」)にはADHDの診断について記述があり、以下の条件をすべて満たしていると、ADHDと診断されます。
- 「不注意(活動に集中できない・気が散りやすい・物をなくしやすい・順序だてて活動に取り組めないなど)」と「多動-衝動性(じっとしていられない・静かに遊べない・待つことが苦手で他人のじゃまをしてしまうなど)」が同程度の年齢の発達水準に比べてより頻繁に強く認められること
- 症状のいくつかが12歳以前より認められること
- 2つ以上の状況において(家庭、学校、職場、その他の活動中など)障害となっていること
- 発達に応じた対人関係や学業的・職業的な機能が障害されていること
- その症状が、統合失調症、または他の精神病性障害の経過中に起こるものではなく、他の精神疾患ではうまく説明されないこと
引用:e-ヘルスネット|ADHD(注意欠如・多動症)の診断と治療
注意が必要なのは、DSM-5は自己判断をするツールではないということです。ADHDは専門医が検査や問診をもとに診断するため、上記の項目でできるのはあくまでもセルフチェックに過ぎません。
大人の不注意優勢型ADHD(ADD)の特徴とは
大人の不注意優勢型ADHD(ADD)には、以下のような特徴があります。
- スケジュール管理が不得意
- 片付けや整理整頓が苦手
- 物をよく失くす・忘れ物が多い
- 金銭管理が苦手
- 気分が変わりやすい
- 人の話を聞いていない
日常生活において全般的に整理が苦手で、時間や金銭的な見積もりが甘かったり、物の整理整頓ができず失くし物や忘れ物が多かったりします。ここからは、上記の特徴について理由とともに詳しく見ていきましょう。
スケジュール管理が不得意
自分のスキルや時間に配慮した計画ができないため、スケジュール管理が上手くいかないケースがあります。時間の見積もりが甘く、能力以上の予定を詰め込んでしまうため、結局はスケジュールどおりに進まないのです。
片付けや整理整頓が苦手
物の置き場所を決めておく、使った後で元の場所に戻すといった行為も苦手です。片付けや整理整頓ができないため、書類や洋服が部屋のあちこちに散乱しているシーンも多く見られます。
物をよく失くす・忘れ物が多い
先のことを計画的に考えて準備をすることが苦手なため、忘れ物が多い傾向があります。また、整理整頓が苦手なことからも、物の管理が不十分で失くし物も多いです。
金銭管理が苦手
金銭管理が苦手なため、計画的にお金を使うことができず、経済状況に合わない大きな買い物をしてしまうことがあります。見積もりが甘く、支払能力以上の金額をクレジットカードで支払うなど、金銭トラブルが起こりやすいので注意が必要です。
気分が変わりやすい
感情のコントロールが苦手なため、感情やモチベーションに大きな波が起こりやすい傾向があります。そのため、他の人からすると「気分が変わりやすい人」という印象を持たれることがあるのです。
人の話を聞いていない
人と話をしているときに集中できず、内容を聞いていなかったり別のことに興味がそれていたりすることがあります。また、衝動性があるケースでは、タイミングを考えずに会話に割り込んでしまうことも。これらも不注意優勢型ADHDの特性である、注意欠如と衝動性から起こる症状です。
不注意優勢型ADHD(ADD)の治療法
ここからは、不注意優勢型ADHD(ADD)の治療法をご紹介します。
- 環境を調整する
- ソーシャルスキルトレーニング(SST)を行う
- 薬物療法
- ペアレントトレーニングを学ぶ
上記のように、不注意優勢型ADHD(ADD)の治療法は、家庭でできるような環境を調整することから、医師による薬物療法までさまざまです。それぞれの治療法を詳しく解説しますので、状況に合わせて取り入れてみてください。
環境を調整する
不注意優勢型ADHDは、周りが気になって集中が途切れるといったことがあります。家では外が気にならないようにカーテンをする、学校では他の生徒の動きが見えない一番前の席にしてもらう、など可能な範囲で環境を整えると、死角から入る刺激が減って効果的です。
失くし物が多い場合はスマートタグ(紛失防止タグ)を使ったり、スケジュール管理が苦手ならスマホのアプリを取り入れたりすることも環境調整になります。
ソーシャルスキルトレーニング(SST)を行う
ソーシャルスキルトレーニングとは、社会で生きていくために必要なスキル(ソーシャルスキル)を習得するトレーニングのこと。教育機関や就労支援施設、医療機関や自治体などで取り入れられています。具体的には、ディスカッションやゲームなどを通して、対人関係や集団行動を円滑に行う練習をします。
成長過程で自然に身につくソーシャルスキルですが、発達障害を持つ人などは成長過程での習得が困難なケースがあるかもしれません。改正された発達障害者支援法では、厚生労働省から障害者当事者の適応力向上の支援として、ソーシャルスキルトレーニング(SST)研修会をメニューに追加し、全国的な普及を図るという方針が示されました。
薬物療法
現在日本では、コンサータ、インチュニブ、アトモキセチンとメチルフェニデートといった薬が認可されており、服薬することでADHDの特性による症状を和らげることが可能です。また、グアンファシンという、小児のみに適応している薬もあります。
いずれにしても薬物療法を行うには、医師の診断と処方が必要です。薬の服用方法にも注意が必要であるため、必ず医師に相談しましょう。
ペアレントトレーニングを学ぶ
ペアレントトレーニングとは、発達障害がある子どもを持つ保護者向けの子育て支援プログラムのことです。ペアレントトレーニングでは、上手な褒め方や叱り方、自分の子どもに合った関わり方を学ぶことができます。ペアレントトレーニングを学んで実践することで、子どもの問題行動の改善に効果が期待できるでしょう。また、親にとってもストレスの軽減や教育スキルが向上するといったメリットもあります。
不注意優勢型ADHD(ADD)の悩みは、オンラインカウンセリングで相談
不注意優勢型ADHD(ADD)のお悩みは、オンラインカウンセリングで相談できます。とくに、不注意優勢型ADHD(ADD)の症状がみられる子どもの場合、病院にかかることも大変です。その点、オンラインカウンセリングなら自宅に居ながら専門家に相談できるため、ストレスなく利用できます。
オンラインカウンセリングのメリット
- 場所や時間に融通が利く(外出不要、スマホあれば参加できる)
- カウンセラーを複数の中から選べる(事前に資格、性別、得意分野などを把握して依頼できる)
「こころケア」には、医療機関での臨床経験があるカウンセラーが在籍しており、豊富な経験から適切なアドバイスができるため、安心してご利用ください。
まとめ
ADDの症状から起こる困りごとは、誰もが一度はしたことがある失敗かもしれません。しかし、一度や二度ではなく、頻繁に不注意による失敗が起こって、日常生活に支障をきたすようであれば問題です。自己判断だけでは誤った対処法を実践してしまう可能性もあるため、あまりにも困りごとが頻繁に起こるようなら専門家に早めに相談することをおすすめします。
記事監修
公認心理師 櫻井 良平
国家資格
- 公認心理師
- 精神保健福祉士
- キャリアコンサルタント
- 社会福祉士
- 保育士
所属学会等
- 日本認知療法・認知行動療法学会
- 日本発達障害支援システム学会
(第17回研究セミナー・研究大会において学会賞受賞)
略 歴
- 医療機関や民間のセンター等での対面・電話・オンラインカウンセリング経験が豊富
- 認知行動療法にかかる厚生労働省・国立研究機関主催研修を修了
- 第一線の専門家に師事し、精神分析療法、解決志向短期療法、愛着理論、応用行動分析学等を研究
- 教育・心理・社会保障・保健医療分野における国内外の国際協力プロジェクトへの従事経験を持つ
(開発途上国における「育児・子育て手法」「発達アセスメント・支援ツール」「知能検査」の開発・普及プロジェクト等)