過食症(神経性過食症)とは
過食症(神経性過食症)は、摂食障害の1つです。なお、摂食障害は症状によって、「神経性やせ症」、「神経性過食症」、「過食性障害」の3つに大別されます。
いわゆる「むちゃ食い」、「気晴らし食い」と呼ばれる過食が特徴です。自分自身で過食欲求(過食衝動)を抑えたり、コントロールしたりすることができなくなり、大量の食べ物を一気に食べてしまいます。
しかし、そのような過食の一方で、太ることに対する強い恐れ(肥満恐怖)を持ち併せています。そのため、過食後に自ら嘔吐したり、下剤を使って排出したりします。さらには逆に、一定期間、食べない(不食・節食)ことで太るのを避けようとします。このような体重増加を防ぐための行為は、代償行動と呼ばれています。
摂食障害は女性に多く、その中でも10代から20代の割合が高いですが、年齢・性別を問わず、誰でもかかりうる病気です。
医療機関を受診する患者数は年間20万人ほどですが、治療が必要な患者数はその倍の40万人ほどに上るという調査結果もあります。
摂食障害は、心身両面の健康および成長・発達、日常生活、対人関係、勉強や仕事などの社会生活に及ぼす影響が深刻です。栄養失調ややせ過ぎ、嘔吐などによって、他の身体疾患を合併し、生命の危険にさらされてしまうこともあります。
摂食障害の徴候に気づいたら、なるべく早期に専門の医療機関を受診して、適切な治療を受けることが大切です。
過食症の特徴
過食症の主な特徴は、「制御不能な食べ過ぎ」です。患者さんは、食べ物を制限することができず、通常の食事量を大きく超えて大量の食物を摂取することが多いです。こうした過食のエピソードは、数回にわたって繰り返されることが一般的です。過食中、患者さんは強い衝動を感じ、食事を止めることができないといった感覚に襲われます。この状態は、自己評価が低く、自己価値を見出すために過食を繰り返すことが多いとされています。過食後には、過剰に食べてしまったことへの自己嫌悪や罪悪感が強くなり、それがさらに症状を悪化させることもあります。また、過食の衝動に駆られることは、しばしば感情的なストレスや心理的な不安と関連しています。患者さんは、感情的な痛みや空虚感を埋めるために食べることが多く、その結果として身体的な健康にも大きな影響が出ることになります。
過食症の影響
過食症は、身体的健康に深刻な影響を与える可能性があります。過剰な食事摂取が続くと、体重増加を引き起こし、肥満や糖尿病、高血圧、さらには心疾患などの生活習慣病のリスクが高まります。過食症による過度の食物摂取は、消化器系にも負担をかけ、消化不良や胃腸障害、胃酸逆流などの問題を引き起こすことがあります。また、過食後の強い罪悪感や自己評価の低さが精神的な健康に影響を及ぼし、うつ病や不安障害を引き起こすリスクが高まります。過食症の患者さんは、食事と感情的な不安の間で葛藤が生じており、これが精神的な症状の悪化を引き起こすことが多いです。
心理的には、過食症は患者さんの自己肯定感を著しく低下させることがあり、その結果として社会的な孤立や対人関係の問題が生じることがあります。過食症によって引き起こされる身体的・精神的な影響は、患者さんの生活全般にわたって広がり、日常生活の質を低下させます。このため、過食症に悩む患者さんは、医療機関での診断と治療が欠かせません。
過食症の症状について
過食症の主な特徴は、急激に大量の食べ物を摂取し、その後自己嫌悪や罪悪感を感じるというサイクルを繰り返すことです。この病気は、身体的健康に深刻な影響を与えるだけでなく、精神的にも多くの問題を引き起こすため、早期の治療が重要です。過食症の症状は、身体的なものだけでなく、心理的な側面も含まれます。
制御不能な過食
過食症の最も特徴的な症状は、制御不能な食べ過ぎです。患者さんは、食事量をコントロールできず、短時間に大量の食べ物を摂取することが常態化しています。過食の際には、空腹感がないにもかかわらず、食べ物を摂取する強い衝動が生じます。この食べ過ぎは、通常の食事量をはるかに超え、過剰なカロリーを摂取することになります。過食の後には、自己嫌悪や罪悪感が強く、再び過食に走ることを繰り返します。
罪悪感や自己嫌悪
過食後に感じる罪悪感や自己嫌悪は、過食症の心理的側面で非常に重要です。過食症の患者さんは、食べ過ぎたことに対して強い後悔を感じ、自分に対する価値が低いと考えることが多いです。これらの感情が、過食行動を引き起こすトリガーになることもあり、食べることに対する強い制御を失った後、さらに自己嫌悪や罪悪感が生じるという悪循環が続きます。
過食の頻度と時間
過食症の症状は、頻繁に発生する過食エピソードに特徴づけられます。食べ過ぎが週に1回以上発生する場合、過食症の疑いが強くなります。過食エピソードは、通常、数分から数時間にわたって続くことがありますが、その際、食事の中断が困難であり、患者さんは強い衝動を感じて食べ続けます。このような過食のエピソードは、患者さんが感情的な不安やストレスを感じているときに悪化することがあります。
食品の選び方と摂取方法
過食症では、通常の食事とは異なる非栄養価の高い食品を過剰に摂取することがよくあります。甘いものや脂っこい食べ物、ジャンクフードなどが多く摂取される傾向があります。これらの食品は、瞬間的に満足感を得るために選ばれることが多く、食べた後の罪悪感や自己嫌悪を強めることになります。また、食べ物を摂取する際に他人の目を避けるような行動が見られ、食事の隠れ食いや秘密の過食が習慣化することがあります。
体重の増加と健康への影響
過食症が続くと、体重の増加が見られることが一般的です。過食症は、摂取するカロリー量が過剰であるため、肥満や生活習慣病(糖尿病、高血圧、心疾患など)のリスクを高めます。しかし、過食症の患者さんは必ずしも肥満になるわけではなく、過食症の症状が見られても、体重が標準体重である場合もあります。それでも、体重管理の問題や健康への影響が続くと、身体的な健康に深刻な問題を引き起こす可能性があるため、早期の治療が重要です。
精神的な問題との関連
過食症は、しばしばうつ病や不安障害、自己肯定感の低さなどの精神的な問題と関連しています。患者さんは、過食を通じて一時的に精神的な安定を得ることがありますが、その後の自己嫌悪や罪悪感によってさらに精神的な問題が悪化することが多いです。
過食症の原因について
過食症の原因は単一ではなく、身体的、心理的、社会的な要因が複雑に絡み合って発症します。過食症の発症には遺伝的要因、神経化学的な要因、心理的な要因、環境的な要因が関与しているとされています。
遺伝的要因
過食症は遺伝的な影響を受けることがわかっています。家族に過食症や他の摂食障害を持つ人がいると、その子どもも過食症を発症するリスクが高くなることが示されています。遺伝子の研究においては、過食症と関連する遺伝子がいくつか見つかっており、これらが脳内での食欲のコントロールや感情調整に影響を与えることが示唆されています。しかし、遺伝的要因だけで過食症が発症するわけではなく、環境や心理的な要因と組み合わさることによって病気が進行することが多いです。
神経化学的な要因
過食症の原因として、脳内の神経伝達物質の不均衡が関与していると考えられています。特に、セロトニン、ドーパミン、ノルアドレナリンといった神経伝達物質が食欲や感情の調整に関わっています。これらの物質の異常な分泌は、過食症の症状を引き起こす可能性があります。例えば、セロトニンの不足が食欲のコントロールを難しくし、過食の衝動を抑えきれなくなることがあります。また、ドーパミンは快楽と報酬に関連する神経伝達物質で、過食によって得られる一時的な快感が病的な食べ過ぎ行動を強化する原因となることがあります。
心理的な要因
過食症の発症には、心理的要因が大きく関与しています。多くの過食症患者は、過食行動がストレスや不安、うつ状態などの感情的な問題に起因していることがあります。心理的な苦痛を和らげるために食べることが多く、食べることで一時的に感情的な安定を得ようとします。このような行動は、自己評価が低いことや、感情のコントロールがうまくできないことが原因であることが多いです。また、過去のトラウマや虐待などの心理的な傷も過食症を引き起こす要因となることがあります。特に、感情的な痛みや空虚感を埋めるために食べることが習慣化している場合があります。
環境的な要因
社会的圧力や文化的背景も過食症の原因となることがあります。現代の社会では、痩せた体型が美の基準とされることが多く、これが過食症の発症に影響を与えることがあります。特に若年層では、身体の外見に対する過剰な関心や社会的な期待が、摂食障害を引き起こす一因とされています。ダイエット文化や食事制限が過食症を引き起こすリスクを高めることがあり、過度のダイエットや食事制限が後に過食行動を引き起こす場合があります。
精神的な問題やストレス
ストレスが過食症の引き金となることもあります。仕事や学校、家庭などでのプレッシャーや、対人関係の問題、経済的な困難などがストレスとなり、過食の衝動を引き起こすことがあります。特に、過食症の患者さんはストレスを感じると、そのストレスを食べることで解消しようとする傾向があります。これが習慣化することで、過食症が進行することがあります。
まとめ
過食症の原因は複合的であり、遺伝的、神経化学的、心理的、社会的な要因が複雑に絡み合っています。これらの要因が互いに影響を与え合うことで、過食症が発症し、進行することが一般的です。
過食症の診断について
過食症(過食性障害、Binge Eating Disorder: BED)は、制御できない食べ過ぎを繰り返す精神的な障害であり、身体的および心理的な影響をもたらします。過食症は、他の摂食障害とは異なり、自ら嘔吐することなく過食を繰り返す点が特徴です。この障害は、しばしば自己評価の低さや感情的な苦痛と関連しており、早期の診断と治療が非常に重要です。
診断基準
診断は、DSM-5(アメリカ精神医学会の診断基準)やICD-10(国際疾病分類)に基づいて行われます。過食症は、以下のような基準に従って診断されます。
- 過食のエピソード: 過食症は、過食エピソード(1回の食事で大量に食べること)が、週に1回以上、3ヶ月以上続く場合に診断されます。
- 過食の際の特徴: 食べ過ぎを制御できない感覚があり、過食中は食べることを止められず、食事後に罪悪感や自己嫌悪が生じます。また、過食は通常、身体的な空腹感とは関係なく発生し、感情的な要因やストレスに影響を受けます。
- 他の摂食障害との区別:過食症は、自己誘発嘔吐や過度な運動などの行動が伴わないため、過食症は過食症候群(Bulimia Nervosa)とは異なります。自己評価が、体重や外見ではなく、食べ過ぎへの罪悪感に基づいて低くなることが多いです。
診断プロセス
過食症の診断には、まず詳細な心理的評価が行われます。診断を行う医師は、患者さんの食事パターンや感情的な問題について詳しく聞き取りを行います。具体的には、過食のエピソードの頻度や発症時期、過食中の感情や思考に関する情報を収集します。
さらに、患者さんが抱える感情的な問題やストレス、過食のトリガーとなる状況についても調査されます。家族や周囲の人々からの情報も、患者さんの状態をより正確に把握するために重要です。過食症は、家族や他の社会的要因と強く関連していることが多いため、周囲の人々からの情報は診断において非常に有益です。
除外診断
過食症と似た症状を持つ他の精神疾患があるため、正確な診断を行うためには、除外診断が不可欠です。特に、うつ病や不安障害、摂食障害(例えば、過食症候群)との区別が重要です。これらの疾患が過食症と併発している場合もあるため、総合的に判断する必要があります。
また、過食症と関係が深い身体的疾患やホルモン異常(例えば、甲状腺異常)が過食症に似た症状を引き起こすこともあるため、身体的な検査も実施されることがあります。特に、過食症患者が心身に与える影響を早期に察知するため、心身両面の診断を行うことが重要です。